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最高裁判所第二小法廷 昭和49年(オ)751号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人三浦強一、同角田好男の上告理由第一点について。

親権者が第三者の金銭債務についてみずから連帯保証人になるとともに、未成年の子の代理人として、右債務について連帯債務を負担し、かつ、子の所有不動産に抵当権を設定する行為は、民法八二六条にいう利益相反行為に該当し、親権者としてした行為は子に対して効力を生じないものと解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第七八三号同年一〇月八日第三小法廷判決・民集二二巻一〇号二一七二頁、昭和四五年(オ)第五九三号同年一二月一八日第二小法廷判決・裁判集民事一〇一号七八三頁参照)。

原審の適法に確定したところによれば、未成年者である被上告人の親権者松野尾鶴子は、訴外松野正直の上告人に対する本件金銭消費貸借債務について、上告人との間で、みずから連帯保証人兼抵当権設定者となるとともに、被上告人を代理して、連帯債務を負担し、かつ、被上告人所有の本件不動産について抵当権を設定する旨の契約を締結したというのであるから、右の事実関係のもとにおいて、鶴子が被上告人の親権者としてした連帯債務の負担及び抵当権の設定が民法八二六条にいう利益相反行為にあたり、被上告人に対して効力を生じないとした原審の判断は、結論において正当であるといわなければならない。それゆえ、論旨は採用することができない。

同第二点について。

記録によれば、本件訴の提起当時、被上告人は未成年者であつて、母である鶴子の単独親権に服していたものであることが明らかであるから、鶴子が被上告人を代理してした本件訴の提起は適法であり、また、鶴子のした訴訟行為の効果はすべて訴訟の当事者である被上告人に帰属するのであるから、利益相反による無効の主張を許さないとする所論は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田 豊 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎)

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